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「私」という
中身が詰まった缶がある。

色んな人が
「私」を手に取り、
買い物かごに入れて行く。

素通りする人もいれば、
手に取って
ラベルや成分表示を見た上で
結局、陳列棚に戻す人もいる。

逆に、
ラベルも見ずに買って行く。
そんな人もいる。

 

蓋を開けて、
この中身に触れてみてほしいのだ。
表面をなぞるだけでもいい。

願わくば、
味わってほしいのだ。
どんな味がするのか、
教えてほしいのだ。

他でもない この「私」が、
他でもない 「君」にとって。

底の方まで掻き出して、
「もっと無いの?」
そんな声が聞けたなら
もう、最高。
 
 
なのに、
君は自分の収納棚にしまったら
もう、見ることはないんだね。

だから、
私は ある日こっそり抜け出した。
君はたぶん、気づかないだろう。

「あれ、一個減ってる」
ひょっとしたら そう思うかも。
でも、
私だとはわかるまい。

だって
君にとっては どれも同じ
「一個」にしか過ぎないのだから。