天使たちの楽園 #小説

 風が心地よい。

 私は自由だった。
 仲間たちに恵まれ、空を自在に駆け回ることができた。
 手足を動かしてひと飛びすれば、世界の端から端まで旅することができた。
「ねぇ、今日はどこに行く?」
「あっちの洞窟を通り抜けて見ようよ」
「またあそこ? ……ふふ。好きね」
 必要なものは何でも揃い、満たされた毎日だった。

 でも、あるときから、私は不幸になってしまった。

 それは、あの人に恋をしたときから。
 彼は、私たちとは違う世界に住んでいた。
 彼は、一日に二回、決まった時刻にやってくる。
 そして必要な物だけを渡すと、すぐに帰ってしまう。

 私は、ずっとあなたと一緒にいたいのに。

「あなたのことが知りたい」
 あるとき、私は彼に訊ねた。
『俺かい? そうだなぁ。水槽で、魚を飼っているよ』
 彼は淡々と答えた。
 私は激しく嫉妬した。魚なんかにあなたの愛情を奪われたくない。
『そら、いつものやつだ』
「ありがとう」
 私は歓喜して受け取った。

『じゃあな』
 あっという間に、またお別れの時が来てしまった。
「待って!」
 私の声は、彼には届かなかった。
 彼は世界の外を指差した。
『お客さんも待ってるぞ』

 ドンドンと、外から音がする。
 行儀の悪い子供たちが強化ガラスを叩いていた。

 そこは、水族館の中だった。

(終)


小説家になろう掲載作品